8月29日。
いつものように朝食にウニを食べていたカモメのうにちゃん。
うにちゃんはオルカラボ前の岩に毎年戻ってくるワシカモメです。
海に潜ってケルプ(水面に漂う大きな海藻)にくっついた水中のウニを捕るのがすごくうまいので、ポールとヘレナが「うに」という名前をつけました。
今朝も元気にウニ捕りに励むうにちゃん、ウニを捕っては岩に運んで食べて、朝食には合計7つも食べたようでした。
それを見ていたのは幼いカラスたち。
巣立ちしたばかりらしく、まだくちばしの根元がふくらんでおります。
オルカラボ周辺では長年ワタリガラス(Common Raven)のペアが幅をきかせていて、ひとまわり小さいカラス(Northwestern Crow)はそれほど見かけませんでした。
しかしどうやらワタリガラスのペアが世代交代したらしく、あまり追い払われなくなったおかげでオルカラボ周辺にもたくさんの小さいカラスがやってきました。
このお話はその小さいほうのカラス、つまりCrowが主役です。
子カラスの一羽がうにちゃんの岩に舞い降りてウニ殻をかっさらうと、たくさんの子カラスがそれを奪おうと鳴き声をあげながら追いかけていきました。
(もちろん中身は食べ終えたあと。目の前で殻を持って行かれたうにちゃんは目をぱちくりさせておりました)
数分にわたるウニ殻争奪戦が繰り広げられていましたが、そのうち中身が空っぽであることに気づいたらしく、殻は捨てられて子カラスたちは別の方向に飛び立ちました。
カラスの群れの中に1羽だけ、つやのある黒羽と成鳥のくちばしを持った個体がいて、親と思われました。
ウニ殻に飽きた子カラスのうちの何羽かが姿勢を低くして羽をプルプルさせ、くちばしを大きく開けてえさをねだっている様子でしたが親らしきカラスは頑固無視。
巣立ちしたんだから自分でえさをとらなきゃね!笑
と、ここまではほほえましい光景だったのですが、じっと観察していたところ、子カラスのなかにチャレンジャーがいたのです!!
引き続き、食べ物かどうかもわからないガラクタをつまんでは奇声をあげて奪いあうたくさんの子カラスたち。
ところが1羽だけ、その中に混じらずにずっとケルプの上に留まって海中を見ている。
何をするのかなと見ていると…
目標を定め、とつぜん、くちばしを海水に突っ込んだのです!!
デッキに出ていたわたしも、Pちゃん(アシスタント4年目の小林桃子さん)も、ポール・スポング博士も大笑い。
うにちゃんがウニを捕り、岩に戻って殻をあけて食べる一連の行動を見て真似してみたのでしょうか…。
ウニ狩りはかなりのテクニックが必要で、ベテランのうにちゃんですらケルプからウニをはがすことに失敗して海の底に落としてしまうことがあります。
もちろん経験もなく、そもそも水鳥ですらない子カラスにそう簡単に水中のウニが捕れるわけもなく、水面から顔をあげた幼カラスはちょっとしたパニックに陥った様子で羽をばたつかせ、声をあげて他のカラスたちのもとに飛んで行きました。
「いつか捕れる日がくるといいね!笑」
とわたしたちは、月を欲しがる子どもに声をかけるような感じで見守っていたのです。
それからほんの1週間後。
9月4日。
オルカラボのデッキに出ていたPちゃんは、再び子カラスがケルプの上に止まっているのを発見してスコープで観察し始めました。
前回と同じように、ウニを狙っているようでした。
「まだ挑戦を続けてるんだ…」
と感心したPちゃん。
しかしそこから彼女が目撃したのはおそるべき子カラスの行動でした。
子カラスは目標を定めると、前回のように水面に顔を突っ込まずに、かわりにケルプをくわえました。
そしてするするとケルプを水上に引っぱり上げ、ケルプ下部にくっついていたウニを水上に出してあっさりウニを捕獲すると、ザクッとくちばし上部をウニの口に刺して落ちないようにくわえて岩の上に飛んでゆきました。
岩の上に到着した子カラスはウニの殻を割って食べ始めました。
それに気づいた数羽の子カラスがやってきて、ウニの身を奪おうと奇声をあげていました。
一連の行動はあまりにも手慣れた様子で、とても初めてとは思えなかったそうです。
おそらくこの1週間、この個体はわたしたちが確認していない間に何度かこの方法で狩りを成功させ、ウニを食べていたんでしょう。水鳥にはできない、カラスならではの方法で!!
Pちゃんから話を聞いたわたしたちは、たった1週間でここまでやった子カラスの頭の良さに震えました…。
自然というのはおそろしいものだなあ。
そして無謀に思えても挑戦を続ける限り、夢は叶うものなんだな、ともちょっと思いました。笑
大げさかもしれないけど。笑
子カラスは今日も元気にウニを捕って食べています。
カモメのうにちゃんがぽかんとした顔で、その様子を眺めていました。